2014-01-01から1年間の記事一覧

お化けの実在に関する文献 - 3

(前回のお話) 身近につきまとう不気味な影を意識するようになってから数日がたった。部屋で何の気なしに過ごしていたわたしは、ふと目をやった天井近くの壁に、一点のシミのようなものを見つけた。はて、あんなところを汚した記憶はない。そう考えながら視…

お化けの実在に関する文献 - 2

(前回のお話) 二つの物体を捉えたわたしの意識には、乱れた髪の女と鳥の死骸が浮かんできた。それが何を意味するのかまでははっきりしないものの、気味が悪くなったので足早にその場をあとにする。 ひょっとしたら付いてきているかもしれない・・・ エレベ…

お化けの実在に関する文献 - 1

『はじめに言わせてもらいたいことは、わたしはお化けの実在を信じる人間である。しかし同時に、実在しないお化けが存在することも信じている人間だということである。』 わたしの住んでいるマンションは、自転車置場が出入口とは反対側にあるので、別の通路…

漂流

休日の昼過ぎにベランダに立って空を見ていたら、遠くに飛行船が浮かんでいる。東京の空に悠々とただようこの物体を目にしたときに私の脳裏に浮かんだのは、レッド・ツエッペリンのアルバムジャケットでもなく、サマーソニックに来たロバート・プラントでも…

まかない(2)

(前回のおはなし) 「パスタどうでしたか?」 私はマスターの方へ顔を向け、おいしいと答える。 「これは私のアレンジでコリアンダーとナンプラーを混ぜているんですよ」 そう話すマスターの瞳からは、心の底から料理が好きだという感情がにじみ出ている。 …

まかない

閉店間際のカレー屋のカウンターには、私のほかにお客はいなかった。メニューを手にして悩んでいると、奥から声が聞こえてくる。 「どうする? もう切り上げてもいいんだよ」 「いえ・・・大丈夫です・・・」 顔をあげると、インド人のマスターと中国人らし…

路上ライブ(2)

(前回のお話) 「お、おれだって、金もってないんだよ」 私の耳に切実な叫びが届いた。 声の方角に目をやると、女子高生のすぐそばに、腰の引けた中年サラリーマンが立っていた。そのサラリーマンと向き合うようにして、一人のバンドメンバーがとまどいの表…

路上ライブ(1)

下北沢の改札口を抜けると、通りから小気味の良い音楽が聞こえてきた。 音のほうへ目を向けると四人組のバンドが路上で演奏を披露している。ジャズをベースにしたグルーヴィーな演奏は、通りの注意を惹きつけるには十分な腕前で、すでに大きな聴衆の輪が四人…

口ぐせ

「吉岡さんってダイナミックでさ・・・・」 電車に乗り込んで座席にすわると、向かいの会話がとびこんできた。 「ホント、あの人ダイナミックでしょ」 どうやら二人は職場の同僚らしい。酒を飲んで上機嫌なようで、片方が一方的に口を動かしていた。 「いや…

商売とは

通勤で使う駅を降りてしばらく歩くと、こじんまりとした商店街にぶつかる。 和菓子屋では、自家製あんこが売ってたり、八百屋では、軒先のぬか漬けがうまそうだったり、タバコ屋では、おばさんの染めた髪の毛とかけてるメガネが、おなじ色のグラデーションだ…

他人の目が気になる男のお話(3)

(前回のお話はこちら) 車がきれいになっても、ギョクレンの心中はなんだかくもったままであった。 「おほっ、デラックスコーティングをお選びですか・・・」 店員にとっては、最高グレードのコースを選んだことへの賛辞であったのかもしれない。だが、ギョ…

他人の目が気になる男のお話(2)

(前回のおはなしはこちら) 「お待たせいたしました」 よほど急いで戻ってきたのであろう。店員はぜいぜい息を切らしている。 「わたくし、たった今、上司と掛け合いまして、お客さま限定で、ナント、2枚で4000円のサービスが可能となりました。通常一枚300…

他人の目が気になる男のお話

セルフ式のスタンドでガソリンを入れていたギョクレンは、ノズルを握りなんとなしに周囲を見渡していた。夜も遅いスタンドには、ほかに客の姿はない。と、敷地の隅にある洗車機が目に入ったので、洗車でもしてみようかと思いたった。 窓から身を乗り出して、…

答えが見つからない人のためのお話(二)

(前回のお話はこちら) それは夕食後、なんの気なしに新聞をペラペラとめくっていたときでした。不意に目の前に衝撃的な文字がとび込んできました。「おなじだ・・・」それはテレビ欄にありました。その文字を目にした瞬間、わたしの頭には、あの看板が浮か…

答えが見つからない人のためのお話

わたしには、ここ数年ずっと頭に引っかかっていた問題がありました。それは、奈良にある室生寺という山あいのお寺をたずねたときのこと。境内で奇妙な看板を目にしたのです。 SANPAIZYUNROという言葉に、私の目はくぎ付けとなりました。 神秘的な山中に、お…

激安レンタル(その3)

(前回のお話はこちら) お金をはらって、サイズを告げても、はいどうぞというわけにはいかなかった。店員はギョクレンたちのことなどほったらかしである。「ハイ、じゃあこちら。サイズどうですか。きつかったら言ってくださいね」 ちょうど先客の家族づれ…

激安レンタル(その2)

(前回のお話はこちら) 積もった雪に足を取られないよう慎重を期しながらも、ギョクレンの心中には、ある別の心配が支配していた。さっきのばあさんの態度は、もはやお願いなんかではない。命令である。命令だとするならば、とうぜん権威が必要になってくる…

激安レンタル

正月にスキーへ行ったギョクレンは、苗場にある「こしじや」という馴染みの宿に宿泊した。道具はレンタルすることになったのだが、細君はスノボをしたいとのことである。 もちろんこしじやにはスノボなんてものは置いていない。(理由が知りたければ、いちど…

うまいめしを食べるを考える

めしを食うというのは、集中すればするほどにうまいものである。 これは読書や映画なんかと一緒で、ほかのことに気をとられていたのでは、おちおち味も楽しめない。 ところが、現代人には時間が足りないので、いそがしいときなどは、めしがただただ腹をいっ…