閉店間際のカレー屋のカウンターには、私のほかにお客はいなかった。
メニューを手にして悩んでいると、奥から声が聞こえてくる。
「どうする? もう切り上げてもいいんだよ」
「いえ・・・大丈夫です・・・」
顔をあげると、インド人のマスターと中国人らしきのバイトの女の子が話をしている。
「じゃあね、ビールはここにあるから。それでグラスはここ」
女の子はたどたどしい手つきでビールを運んできた。いっぽうのマスターは手際よく調理をはじめ、あっという間にカレーが出来上がった。
料理を運び終えると、二人の間でまた会話がはじまった。
「これから、まかない作るからね。食べたら今日は終わりでいいからね」
「はい・・・」
マスターはフライパンを手にすると、これまた手際よくパスタを完成させる。女の子は皿を手にしてカウンターを回りこみ、私と反対側の隅に腰掛けた。
「カレーも食べる?」
「はい・・・」
マスターはカウンター越しにカレーの皿を手渡して、食べ始めたのを見届けると、安心したように私に話しかけてきた。
「味はどうですか」
私はもちろんおいしいと答える。気を良くしたマスターは話を続ける。
「私はね、料理が大好きなんです。インドの料理も、日本の料理も、洋食もみんな好き。だから色々な料理が食べられるお店を作ったんです」
そういえばとメニューを見ると、カレーのほかにも定食やパスタといった、さまざまな料理がならんでいる。
「パスタも得意なんです。今度はパスタを食べにきてください」
そういってマスターは、フライパンに残っていたまかないを少しだけ皿に盛り付けて、振る舞ってくれた。
するとそのとき、とびらが開いてもう一人お客が入ってきた。マスターは笑顔で迎え入れ、カウンターに案内する。そこで、隅に座っていた女の子は調理場の隅に移動してもらわなければならなかった。
女の子はふたたびカウンターを回りこみ、私の正面に移動してきた。マスターは新しい客から注文をとって、料理を作っていた。
私は料理が完成するのと同じくらいに食事を終えたので、ふたたび手が空いたマスターと会話が再開された。