積もった雪に足を取られないよう慎重を期しながらも、ギョクレンの心中には、ある別の心配が支配していた。
さっきのばあさんの態度は、もはやお願いなんかではない。命令である。
命令だとするならば、とうぜん権威が必要になってくる。だが、その権威をまとっているのは、フロントに寝転んでいるばあさんであって、実際に借りにいく自分ではない・・・ということは・・・
予想は的中した。レンタルショップでギョクレンを迎えたのは、あからさまに不機嫌な顔をしたスタッフである。
「こしじやさんトコの・・・1500円でしたっけね」
雪が降りしきる屋外のほうが、まだ暖かく感じられるほどに、男の口調はそっけない。
輝く雪の結晶とは真逆の、にごった水たまりのような瞳をこちらに向けている。
「二日で1500円ですと、最低ランクのものしか出せませんよ。一日1500円でしたら、それでも十分割引きしてますが、まあそれなりの道具が用意できますけど」
「遊びで少しばかりすべる程度なので、最低でもかまいません」
「本当にいいんですね。穴が開いているようなやつですよ」
「穴ですか?」
ギョクレンはおどろいて聞き返す。相手の男は表情ひとつ変えず、返事もしない。人形焼のような顔ですましているので、真意がはかりかねた。
あきらかにいやがらせをしてやがる・・・・。
ギョクレンは男と対峙してからというもの、その考えをぬぐうことができなかった。
この男、逆立ちしたって、ばあさんには刃向えないもんだから、ここでウサを晴らしているのである。
ばあさんはけっして宿の外には出てこない。あとから言つけたところで、すでにばあさんには興味はなくなっている。それを知っていて、横柄な態度に出たのだ。
店員の態度は腹に据えかねるものであった。だが、ひとつひっかかることがあった。
穴とは、いったいどういうことなのだろうか。
板に穴なのか、靴に穴なのか・・・
穴が開いたスノボなんて見たことがなかったので、どうしても気になってしまったのである。
穴の開いたスノボを借りてみたい・・・
ギョクレンの考えは、いまや別のベクトルにむかい、すんでのところで喉の奥からもれそうになる言葉をおさえていた。
しかし、使うのは細君である。細君はあからさまに嫌そうな顔をしている。
しかたがないので、3000円払って、普通のものを借りることにした。