二つの物体を捉えたわたしの意識には、乱れた髪の女と鳥の死骸が浮かんできた。それが何を意味するのかまでははっきりしないものの、気味が悪くなったので足早にその場をあとにする。
ひょっとしたら付いてきているかもしれない・・・
エレベータの前まで来たときに、そんな考えが私の頭をよぎった。おそるおそる後ろを振り返る。もちろん通ってきた廊下は静寂を保ったままで、誰が近づいてくるわけでもなかったのだが、心にできたシミのようなうす気味悪さはすぐに消えることはなかった。
あくる日のこと、トイレに行こうとドアを開けた私の目の前を、何か黒いものが横切った。素早い影は便器の裏に隠れるように消えていく。狭い室内に潜むものなどいようはずがなく、第一この家には私しかいない。便器の裏を覗きこんでも異常はなかったので、錯覚だろうということで始末をつける。
しかし次の日、またもや一人で部屋にいると、玄関のセンサー式のライトが、ひとりでに点灯した。わたしは離れた所へ寝転がっていたのでセンサーを反応させようはずはない。かといって玄関を見に行っても何かが動いた形跡もない。
さすがに2日続くと無視できなくなる。私の心には再びシミが広がっていく。
週末、部屋でうとうと午睡していた私は、夢とうつつの間を行き来していた。体はだるく思うように動かない。トイレのとびらの奥に気持ちの悪い気配を感じるので、鎖でがんじがらめにされたような体をひきずっていき、思い切ってとびらを開ける・・・そこで目が覚めた。
目が覚めたあとも、夢の中と同じように体は重く、すぐに起き上がることはできなかった。
この部屋にはきっと何かがいる。
わたしはそう確信した。