2022年の年末、エグザンティアに乗って目白通りのとある場所で、信号待ちをしていたときのことである。
すぐ前には、真っ赤なアルファロメオのオープンカーが停車していたのだが、そいつがじわりじわりと後ろに下がってきているように見えた。
だいぶクラッシックなクルマだったので、おそらくマニュアル車なのだろう。
どうやら、この道路は体では感じないが、わずかに傾斜しているらしく、それでじわじわ下がっているに違いない。
オープンカーには、男女二人が乗っていて、しきりに何かを話している。
なるほど、きっとこの男は、「ブレーキを離すと、下がっていくんだぜ」なんて言って、今どき珍しいマニュアル車を隣の女に自慢しているに違いない。
そのうち悪ふざけも終わると思い、視線をそらして横の景色に目をやっていた。
信号はなかなか変わらない。
再び視線を前方に戻すと、なんとアルファロメオのやつは、まだじわじわと下がっていて、もうぶつかる寸前まで来ていた。
「こいつは何をしたいんだ」
と思った瞬間に、コツンと相手の尻とこちらの鼻がぶつかってしまった。
相手はようやくそこで気がついたのか、車から降りてきて、ぶつかったところを見ている。
運転していたのは、思ったよりも若い男である。
私の方は、ぶつかったと言っても亀が歩くほどの速度だし、気にするほどでもない。
後ろには子供も乗っているし、車から降りるのも寒いので、相手と目が合うと、いいから行けと手で合図した。
ところが男は、そのまま歩いて、私のそばまでやってきた。
仕方がないから窓を開けて、
「いいよ、いいよ。ちょっと当たっただけだから」
と言ってやったのだが、相手からは予想だにしない言葉が返ってきたのである。
「いや、それはおかしいですよ。当たってきたんですから、まず外に出て謝ってください」
男は不満げに私の方を見ている。
なんと、この男は、自分が下がっていた認識がないのである。
こちらが広い心で許してやろうというのに、なんたることか。
さすがに腹が立ったので怒鳴りつけてやると、男はようやく自分の非を認めて、しきり平謝りしてきた。
結局事を荒立てることなく許してやったのであるが、年の瀬に、とんでもない奴に出くわしたものだと、なんだか釈然としない気分で走っていた。
しかし、よくよく冷静に考えてみると、これで相手が自分の非を認めなかったら、どうなっていたのだろうか。
たとえ私が正しくとも、それを証明するものがなければ、お互い主張するばかりで、話は平行線のままになってしまうかもしれない。
そうならないためには、ドライブレコーダーを付けるしかない。
「よし、ドライブレコーダーを買おう」
そう心に決めたのであった。