ぐずの嘔吐

ギョクレンは、子どものころからねこを飼っていたのだが、すべて田舎で放し飼いにしていたので、ねこの生態には詳しくない。ねこといえば、眠いときと腹が減ったときに家に帰ってくる存在であった。

しかし東京のマンションの4階に連れてきたからには、ぐずを放し飼いにするわけにもいかないので、四六時中いっしょに過ごすことになった。

ある日家に帰ったら、床に大量のげろが吐いてあった。以前も吐いていたような気がしたので、それほど気にもとめずに、ぞうきんで床をふいてえさをやる。しばらくテレビを見て2時間ほど経つと、また台所にげろがある。さきほど与えた夕飯を吐いてしまっていた。

こうなると心配になってきた。こんなに吐くことはなかったので、何かの病気ではないかと悪いほうへと考えてしまう。

知り合いの獣医に電話して状況を伝えると、ねこにはよくあることだから、しばらく様子を見てみなさいとの返答である。ねこにはよくあることだとしても、うちのぐずにははじめてのことなので、すんなりと受け容れることはできない。電話の最中にもまた横で吐いている。

こうなってはなにも手につかなくなり、心配でおろおろするばかりとなってしまった。ぐずは胃の中のものすべてを出し切ってしまったらしく、ご飯をせがんできた。か細い声でミャーミャーすり寄ってくるといたたまれなくなってくる。

お湯でふやかしたドライフードを与えたら、少し元気を取りもどしたようなので布団に連れていき一緒にねることにした。

ところが布団にもぐると先にこちらが眠たくなってくる。心配にちがいないのだが、どうしてもまぶたは重くなる。必死に開いて観察すると、ぐずはまだ寝る気配はない。目を閉じて寝たかと思えば外の物音で目を覚ます。そのうち遠くからよそのねこの鳴き声が聞こえてくると、起きあがって窓のほうへと駆け出していってしまった。

そこから先は覚えていない。窓から聞こえる猫の声は夢うつつの中で頭にひびいていた。

 

翌朝、いつも以上に元気な鳴き声を発して壁紙をはがす音で目が覚めた。賃貸の壁紙をめちゃくちゃにされてはたいへんだととび起きると、無邪気な顔でやぶいた壁紙をくわえるぐずがこちらを見ていた。

 

 

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