レジでのあやまち(2)

(前回のおはなし)

 198円を3割引すると、おおよそ60円ほど安くなる。たかが60円。もしもお店を出た後に気がついたのなら、わざわざ引き返すことはしないであろう。しかもこの男は新入りである。慣れないうちはミスもあるのだから、大目に見てやってよいではないか。

しかし、ここで指摘しなければ、彼はいつかまた同じ過ちを繰り返すかもしれない。黙っているのは、返ってこの男のためにならない。何よりも、先ほどほくそ笑んだ意味がなくなってしまう。ただの気持ち悪い思い出し笑いになってしまう・・・

「あの、カステラ3割引ですよ」

新入りレジの価格コールから2秒後、上記のように考え抜いた末、ギョクレンは控えめに口を開いた。

指摘を受けた新入りの顔から、サァ―と血の気が引いていく。カステラを取り出し3割引のシールを確認し、あたふたした手つきでレジを操作するが、どうしてもうまくいかない。
あせる新人、簡単に訂正できると思っていたギョクレンも気が気でない。とうとう新入りは近くを通りかかった先輩店員に助けを求めた。

説明を受けた先輩店員は、詫びを入れてもう一度最初からレジを通していくことになった。
新入りは横で申し訳なさそうに立ったまま、先輩の操作を見守っている。ギョクレンはその姿を気の毒に思い、予想以上に大ごとになったことで、後悔する念が生じていた。

先輩の手つきは慣れたもので、次々と商品をレジに通していく。もちろんカステラの3割引も忘れない。あっという間にすべての商品を通し終え、価格をコールした。

「1546円になります」

「はい?」

ギョクレンは耳をうたがった。1300いくらじゃなかったのか。そうして横に突っ立っている新入りに憎々しげに目をやる。

コイツめ、まさかほかにも間違えていたとは・・・。

しかし、時すでに遅し。さっきは1300いくらでしたなんて、いまさら言えるはずがない。ギョクレンは大きなため息をついたあと、素直に料金を支払い店を出た。

菓子パン棚の前でほくそ笑んだことなど遠い過去のこと。あのまま新入りのミスを指摘しないほうが・・・と後悔しても後の祭りで、誰一人得をしない幕切れとなった。

正しいことを述べても、必ずしも幸せな結末が生じるわけではない。

カステラをほおばる前に、社会の皮肉な法則を味わってしまったことにシニカルな笑みを浮かべ、家路につくのであった。

 

(終)