ぐずの誕生(その2)

(前回のおはなしはこちら)

 

しらせを聞いたギョクレンは次の日仕事を終えるや実家へもどった。

さいきんでは、子ねこもずいぶん成長して自分で歩けるようになったのだという。母ねこがどこかへ連れていっても、自分の意思でよちよち勝手な方向へ歩いてしまうので、二匹目をくわえてくるあいだにそこにはいなくなる。はじめのうちこそつかまえては戻しを繰り返していたのだが、そのうちムクのほうでも混乱してきて居場所がわからなくなってしまったというのであった。

 

行方知れずになったのは、おとといの朝のこと。にゃあにゃあ鳴いている声が聞こえてくることからして、天井裏を徘徊していることだけはわかっていた。人間の心配をよそに親ねこを見ると、べつに何事もなかったかのように二匹の子どもを世話している。いがいと薄情なものなんだと思ったが、鳴き声が聞こえると、とたんに落ち着きを失ってそこいらをうろうろ探しはじめるそうである。

 

「もう二日たったからね。朝までは鳴く声が聞こえてたんだけど」

母親は天井を指さした。連休明けでだいぶ気温も上がってきたころであった。

「もしかして、もうねずみに食べられちゃってるかもね」

ギョクレンはどきりとする。ねずみがねこを食べるなんて衰弱死よりも衝撃である。

「オスしかいないけど、まだ二匹いることだし」

しだにか細くなる声を聞いてきた母親は、ややあきらめの色を見せていた。

 

しかし、ギョクレンとしてはそうやすやすとあきらめるわけにはいかない。もらうと決めたのだから、生死がはっきりするまでは責任をもたねばならない。親ねこが行かないのなら、代わりに天井にのぼるしかないと決めた。

 

夜も更けてすでに日付は変わっていた。家族のものが寝静まったなか、ギョクレンははしごを伝って天井裏へと入っていく。築50年は経っている古い家である。ライトをつけると屋根と天井のあいだに空間がひろがり、あちこちに太い梁が伝っていた。梁にしがみつきながら先に進んでいくと、子どもの時分になんどか探検気分で天井裏に入った記憶が浮かんできた。

 

母親から聞いた声のする方向に見当をつけて進んでいくが、途中で思わぬ生涯に出くわした。なんと目指す先の天井裏が終わってしまったのである。

 

(つづく)