ぐずの誕生

ギョクレン氏はねこを一匹飼っている。数年前に実家でねこが子どもを生んだので、一匹貰い受けたのである。

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母ねこのムクは、はじめてのお産であった。いよいよ産まれる段になって、夜中にギョクレン氏の母親の布団の上にあがってきた。にゃーにゃー鳴いて、さすってくれと言うもんだから、おなかをさすって話しかけてやったら無事にその場で出産したという。ねこのくせにそんなふうに飼い主を頼って子どもを産むのかと、ギョクレン氏は関心したものである。

ギョクレン氏の実家ではずっとねこを飼っていたのだが、これまでのねこたちは田舎で好き勝手に放していたので、きちんと室内で飼ったことはない。オスだと外に出たがるという話を聞いたので、メスねこをもらうことにした。

 

生後二週間ほどの子ねこは、てのひらにのるほど小さい。じっさいにてのひらにのせてみると、とたんにムクが寄ってきてにゃーにゃー返せと鳴いてくる。あまりに小さく、二か月ほど母親と一緒にいさせたほうが良いと聞いたので、しばらく待っていた。

 

母親の話だと、ムクは子どもをあっちこっちに移動させているという。子どもは4匹生んだが、一匹は目もあかずに死んでしまった。埋葬してあげたのだが、そのときに子どもを取られたと勘ちがいしてしまい、警戒心が強くなってしまったのである。

ときには子どもたちを一匹づつくわえて天井裏にいくこともあった。ギョクレン氏は、子ねこの首の上をくわえて柱を駆けのぼるムクの姿を見ては、ああ、このために首の皮が伸びるのかと関心したものである。

 

ひと月ほど経ったある日のこと、実家の母親から電話がきた。

「ムクちゃんがねえ、子どもを置いた場所を忘れちゃったらしいのよ」

 

(つづく)