「一番線ドア、閉まりまーす」
駅員の呼びかけと発車メロディがホームに響きわたるなか、三人の女性が列車に乗り込んできた。三人を受け入れると間もなくドアは閉まり、ゆっくり列車が動き出した。女性たちはすぐ脇の空いている座席に腰かけた。
席に座るやいなや、三人は大きな声で会話を楽しみはじめた。むかいに座っていたギョクレンは、声に反応してこころもち顔をあげた。
「けっこう出席者も多かったわよね」
女性たちは一様におしゃれをしている。足元にはそれぞれ引き出物と思われる紙袋が置かれていたので、どこから帰ってきたのかはすぐに判断できた。
「でもさ、まさか○子がいちばん早いとはねえ」
どうやら新婦は女性たちと同級生のようである。
「まあ、こういうのって早い遅いじゃないから、あせったってしょうがないじゃない」
「ははは、それじゃあ、○子があせってるっていってるみたいじゃない」
おそらく、この三人は、まだ・・・、まだなのだろう。
「でも、期待していたよりはよかったんじゃない」
「うーん、まあまあじゃない」
会話は駅を二つ三つ通りすぎたくらいではおとろえることはなかった。ところが、四つ目の駅に到着したときに、三人の様子に変化が現れる。
「どこで乗り換えるんだっけ」
「○○駅でしょう」
「でも、ここって」
ギョクレンは駅名を耳にしてがくぜんとした。
「やだあ、逆方向にのってるんじゃない」
女性たちは閉まりかけたドアにめがけ一目散にホームに駆け出していった。ちょうど向かい側に上り列車が到着したので、三人はとびらのなかに吸い込まれていく。
「一番線ドア、閉まりまーす」
列車が動き出すと車内はふたたび静寂をとりもどした。
次々と口から飛び出していたこぎみよい言葉とは裏腹に、彼女たちの心中はけっしておだやかでなかったのである。
「列車の方向くらい間違えさせてやってもいいじゃないか」
ギョクレンは女性たちの心の動揺に思いをはせて、そうつぶやくのだった。