神社は海女資料館のわきから坂道をのぼったところにある。すでに坂道には多くの参拝者の姿があった。ほかの観光客にまじって歩いていると、とつぜん横から呼びとめるものがいる。
「男三人で行ってどうすんだ」
声のほうを向くと、道ばたの露店に年配の女性二人が座っている。ぶっきらぼうな言葉をかけられて、因縁でもつけられたのかととまどう一行に、二人はさらに続けた。
「オンナの神様だぞ」
「ええ、知ってます。家内にお守りでも買っていこうかと」
ギョクレンはやっと答える。
「へっ、あんなお守り効くわけねえだろ」
二人の女性は、露店にどっかりと腰をおろしたまま、大声で毒づいた。
まわりにはギョクレンたちのほかにもおおぜい歩いていた。ギョクレン一行に向けての言葉とはいえ、むろんその声は届いているはずである。
ところがほかの観光客ときたら相手にするつもりはないのか、はたまた願いを叶えることに夢中で、そんな声は届かなかったのか、そ知らぬ様子でわいわいと通り過ぎていく。
(冷やかし半分の自分たちだけならばともかく、このなかには本気で参拝にくる人だっているんですよ。)
ギョクレンは心のなかで二人に訴えるのだが、もちろん相手には伝わらない。この場を納めるには退散する以外にはないとばかりに、そそくさと先を急いだ。
「あの二人って、ぜったい海女さんだよね」
一行は歩きはじめるやいなや、さきほどの遭遇を振りかえる。
「露店で海草みたいなの売ってたしね」
「海草うんぬんじゃなくて、あのおばちゃんたちから出てるオーラが海女さんだったよ」
「これからいくとこって、海女さんの神社なんだよね」
「思いっきり否定してたね」
「すげえな、海女さん」
そんなこんなで神社へ到着する。参拝を終えたギョクレンは、ほかの観光客に混じって、お守りを手に入れる。
おなじ坂道を下って帰る途中、ふたたびあの露店が近づいてきた。
(つづく)