マテヤの掃除

数年前に実家にある蔵の掃除を手伝うことになった。

この地域では、蔵のことを「まてや」と呼んでいる。どういう意味なのかはわからないが、子どものころから耳にしているので通じるのである。

「仕舞っておく部屋」という意味で使っているのか。長年使っているうちに何かが省略されてしまった言葉なのか。
おそらく使っている本人たちですらルーツはわからないであろう。

その「まてや」は、半分ガラクタ置き場のようになっていたのだが、今度から収穫した米の保管場所にしようと、改装に着手したのである。

その日はたしか夜のうちに雨が降って、涼しい風が吹いた秋の入口のころであった。

すべての荷物を外に出していくと、部屋の中からゴキブリとカマドウマが大量に出てきた。
あれほどの虫を一度に見たのは、はじめての経験である。衝撃的な光景であった。

ただ、家の中では一匹でも見つければ大騒ぎするだろうに、整理だと思うと平気で駆除してしまう。なにしろ数が多いので、一匹くらい腕にとまろうがなんとも思わない。

人は、自分たちにとって害になるものを悪として嫌う。たとえば稲作や生活に必要なければ、害虫とみなしてしまう・・・・

などと書いている文章に出会ったことがある。どこかの哲学者の言葉である。

もっともらしく言っているのだが、頭の中で考えただけのことで、そこには環境もなければ労働もない。
経験がなければ、つまり中身がないということである。

すべての害虫を駆除して、きれいになったマテヤは、いまでは温度管理のできる米の保管倉庫として利用されている。

そのマテヤの裏側には、相も変わらずに雑木林が広がっていて、そこにはきっと大量のゴキブリとカマドウマが暮らしているのであろう。