10月12日は、季節外れで規格外の大型台風が東日本に上陸した。
甘木さんだって、こんな日にはお店を休みにしたいだろうにと、すまない気持ちで電話をしてみると、いつものように気さくな声が電話口から返ってきて、納車は問題なしとのこと。
すでに朝から降りしきる雨の中、計画運休前のガラガラの電車に乗って最寄り駅に到着すると、メカニックのカレーのお兄さんが初期型C5で迎えに来てくれた。
カレーのお兄さんは何歳かは知らないが、見たところ自分と近い年齢で、とても話しやすい。過去に送ってくれたときに、二回ほどうまいカレー屋の話をしたことで、親しみを込めてそう呼んでいる。
カレーのお兄さんが迎えに来てくれることは、ある程度予想していたので、乗り込むなりさっそく気になる質問をぶつけてみた。
「これからエグザンティアを乗るって、ぶっちゃけどうなんですかね」
お店では甘木さんとばかり話していたので、第三者の意見も聞いてみたかったのである。
「そりゃ、もうチャレンジャーですよ」
とカレーのお兄さんは、笑いながら答えた。
「やっぱそうですよね。20年前のクルマですもんね。社長はいつも大丈夫って調子よく言ってますけど、ほんとかな」
「それはほんとですよ。エンジンとかボディは問題ないし、部品はうちでなんとかするんで」
なんと頼もしいんだと、感動を覚える。
「このお店に出入りするまで、シトロエンもハイドロもまったく知らなかったんですが、そんな自分がエグザンティアに乗って良さがわかりますかね」
「全然違いますよ、ハイドロは。維持にはそれなりの苦労があるけれど、今のクルマでは味わえない楽しさがありますから」
これで腹は決まった。そして心も踊っていた。
そうしているうちに甘木さんの工場へ入ると、より激しさを増して降りしきる雨粒の向こうに、銀色に輝くエグザンティアが静かに走り出すときを待っていた。
まずは事務所で今回の納車整備の説明を受ける。
これまでの経験でダメになる箇所をひととおり交換してもらい、スフィアは在庫がなかったのでリチャージで対応。車検の法定費用と登録代行料を合わせて約50万円。
これに、2000年式の47000キロの委託販売車両が45万円だったので、乗り出し総額はぎりぎり100万円を割った。
最初の想定ではもう20万円くらいは安く収まるかなと見ていたが、それだけしっかりと整備をしてくれたということで、不思議と安心した気持ちになった。
最後に甘木さんが「窓落ち」対策として、ワイヤーに負担がかかるので窓を全開にしないで、5㎝くらい残しておくようにとアドバイスされる。それでも落ちたときのために、ゴミ袋と養生テープをトランクに入れておくのがおすすめだということであった。
こうして古くて新しいシトロエン・エグザンティアとの生活が始まったのである。