プジョー308SWの査定をしてもらった話

当日にやって来たのは、外車王ではなく、パートナーショップと名乗る気の良さそうな中年の男であった。丁寧に名刺を渡され、さっそく査定に入った。

これまでクルマの査定というものを経験したことがなかったので、その様子を興味深く観察させてもらったのだが、正直言っておどろいた。こんな古いクルマにここまでやるかというくらい、内外装からボンネットの中、足回りまで、スーツ姿で膝までついて入念に調べるのである。

私は思わず感心して「さすがプロですね~」などと声をかけると、気をよくした男は、査定のポイントを色々と教えてくれる。

「この板金のあとはディーラーのものなんです。町工場だともっと小さいから、事故で取り換えてもすぐにわかるんです」

「エンジン下のフレームの塗装の色が違っていますね。もしかしたらこの部分に手を加えているかもしれません」

見ると確かに塗装がはげている。しかし私には覚えがない。

「わかります。板金がディーラーのものですから。整備簿を見ると、前のオーナーはずっとディーラーに出していたようなので、前のオーナーの時に何かあったかもしれません」

「でも、購入時には、何も言われませんでしたが」

「うーん、なにかあったんじゃないかな。ほら、ここのネジも外れているでしょう」

男の言っていることが真実なのか、出まかせなのかはわからない。ただ、この話を買うときに聞かされたのなら、いい気持ちはしないが、売るときに言われたので、他人事のようにうなづくだけであった。

ひと通りのチェックが終わって、査定結果を計算しているが、男はうんうんと悩んでいるだけで、なかなか数字を出さない。不憫におもったので、前の2社の査定額を教えてやった。

「そうですか。ちょっと会社に確認させてください」

長い電話のあとに、ためらいがちに口を開いた。

「会社で把握している相場的にはそこまでは・・・という、感じなんです」

この男は何を言っているのだろう。だから最初にこっちから忠告してやったではないか。そんな大層なクルマではないと。

まあ、しかしせっかくここまで来て、実際の査定の様子を見せてもらったのだから、少しはまけてやろうと思って、還付込みで2万円ならお渡ししましょうと伝えてやった。

すると男はまた会社と相談している。もはや査定に来た意味などないのではないか・・・何をしているのかわからなくなってきた。

電話を切った男は申し訳なさそうな顔でこっちを見た。

「正直申し上げて、会社側では15000円と言っているんです」

1万5000円、還付金より安いではないか!

「しかし、交渉しますので、なんとか18000円でお願いできないでしょうか」

いったいこの男は何をしに来たのだろうか。私が驚いた表情で見ているとさらに続ける。

「私どもはこの車を鉄くずにせずに、転用する方針で査定しております。これまでのお客様のなかには、大事にしていた車なので、査定が安くても鉄くずにしないのであれば、私どもに任せたいと言っていただく方もいらっしゃいまして」

そんな話を毛頭信じるつもりもないが、他の2社よりほんの少し可能性があるのであれば、308も浮かばれるかもしれない。なによりこんな数千円レベルの査定額でこれ以上の労力を使うのも惜しいので

「じゃあ1万8000円でいいですよ」

と言ってやった。

しかし、私はこのとき、この契約にひそむあるリスクに気づいてはいなかったのである。