書棚のなか

神保町の道ばたでラックに並んだ本を見ていたとき、宮沢賢治の文庫本を偶然手に取った。たしか「銀河鉄道の夜」がはいった岩波の短編集だったと思う。

なにげなくパラパラめくっていくと、最後のページにペンで署名がありその横には

45月 成人の記念に いつまでも子どもの心を忘れないように」

と書きつけてあった。

 

昭和45年に成人ならば、現在は還暦を越えている。持ち主はすでに亡くなってしまったのだろうか。そして遺族はこのメッセージを知らずに売ってしまったのか。

はたまた本人いまだ健在で、こんな書きつけなどすっかり忘れて引越しのゴミにでもなったのか……

 

いずれにせよ、これを書いた当人が生きていようがいまいが、賢治の本に託したこの人のハタチの志はとうに死んでしまっている。

しかし賢治の精神はいまでも生き続けているので、志を胸にもった次の読者を書棚で待っているのかもしれない。