空席(その1)

駅に到着した列車に、三人組の男が乗り込んできた。ギョクレンが座る向かいにちょうど空いている席があったので、ならんで腰かける。列車が動きだすと、車内にはたわいもない会話をはじめた若者たちの声がひびきわたっていた。

「次は○○駅~ ○○駅~」

列車は駅に近づくとお決まりのアナウンスをはじめる。時間がおそいため、駅に到着しても乗り込んでくる乗客はほとんどいなかった。

「次は○○駅~ ○○駅~ お乗換えにご注意ください~」

動きだした車内にふたたびアナウンスが流れると、こんどは三人組が反応した。

「あれ、どこまで行くんだっけ?」
「△△線に乗り換えるんだから、○○駅だろ」
「どれくらいだっけ? けっこうすぐだよな。ちょっと見てくるわ」

話し声ですいみんを妨げられたギョクレンは顔を上げてちらりと向かいを確認した。三人のうちのひとりが立ち上がり、ドアの上に掲示された路線図を確認しにいったようである。その間も列車は走り続け、次の駅へと到着した。

「ご乗車おつかれさまでした。○○駅です~」

ここで男が一人、ひらいたとびらからさっそうと車両に足を踏み入れ、首をまわして車内の様子をかくにんする。車内はちょうどすべての座席が埋まるくらいの乗客が居合わせており、立っているのはむかいのドアの前で路線をかくにんする若者くらいであった。

男はひとつだけ空いている席を見つけ、近づいていく。

ギョクレンは近づいてくる足音で、ふたたび目をさました。

「いけない! オッサン、その席はダメだ!!」

目の前に飛び込んできた光景にびっくりしたギョクレンは、思わず大声をあげそうになった。

だが、ギョクレンの声がノドを通り抜けるより一足早く、男は席に滑り込んでしまう。

列車が動き出すとギョクレンはおそるおそる、とびらの前にいる若者に目をやった。

 

(続く)