「ギョクレンさんの遅いですね」
むかいの席の英さんはピーマンと牛肉の細切り炒めをつまんだ手をとめて、顔をあげた。
横にすわる尾位さんも、不安げな顔つきで厨房に目をやっている。
「そのうちきますよ。どうぞ、食べててください」
ギョクレンは平然と言いはなつ。
それを聞いたふたりの同僚は、すこし気まずそうに自分の皿に顔をもどす。
ギョクレンはさっきから背筋をのばしてうでを組みながら、テーブルに置かれたコップの水をじっとみつめていた。
昼休みに中華食堂にはいった三人は、メニューにならんだランチセットのなかから、それぞれ別なものを注文した。
ところが、ほかのふたりの料理が半分ほどに減ったところまできても、ギョクレンの坦々麺は、いまだテーブルに姿をあらわしていないのである。
はじめは三人とも気楽にかまえていた。ひとりだけ遅れることなんてよくあることで、食べはじめていればすぐに来るだろうと。ランチタイムで店内にはおおぜいのお客がいたが、店が回らなくなるほどの混雑ではないのだから。
だが、いくら待っても来ないのである。
厨房になにかしらのトラブルが発生して、料理が作れなくなったのだろうか。
いや、あとから入ってきたお客が注文した定食などは、すずしい顔をしてギョクレンの鼻先を通りすぎていく。
同僚ふたりも最初のうちこそ会話もはずんでいたのだが、時間がたつにつれだまりこくったまま、心から料理が楽しめないようである。
彼らの気遣いは、ギョクレンにも痛いくらいに伝わってきた。
だが、自分ではどうしようもない。できることといえば、飲みたくもない水をちびちびやるくらいであった。
ギョクレンは、チャーハンを食べている尾位君に視線を落とした。
じつは注文のときにひっかかることがあったのである。