また因縁でもつけられたら大変なので、顔を見られないよう露店からそむけて素通りを試みるギョクレン。
だが、むだであった。相手は海の中で獲物を見つけることをなりわいとしている海女さんである。女性ばかりの参道の中で浮いている男三人のなぞ、たやすく見つけて呼び寄せてきた。
「行ってきたのか」
「はい」
「どれ見せてみろ」
海女さんたちは神社の包み紙を目ざとく見つけると、ギョクレンが何も言わないうちからひったくって、勝手に中身を取り出した。
「まったく、こんなお守り買っちまって・・・・いくらした?」
「○○円です」
海女さんの押しが強すぎて、なすがままになるギョクレン。
「こんなものに・・・バカだなあ・・・だったらウチのもの買ったほうがよっぽどいいわ」
海女さんはそういうとお守りをギョクレンに返す。その言葉を聞いてギョクレンははじめて露店の品物に注目した。
「アオサですか。うまそうですね」
「うまいよ。これな、そこらの店で買ってみろ。倍の値段はするぞ」
「たしかに安い。買います」
「はい、ありがと」
「こっちはなんですか。このカラフルなやつ」
「おかきだよ。うまいよ。食ってみろ」
「うまい! こんなに入ってこの値段ですか」
「そうだよ。手作りだよ」
「これも買います」
「はい、ありがと」
海女さんから買ったアオサとカラフルおかきの味、なによりも本物の海女さんとの会話はギョクレンの旅の思い出に深くきざまれることとなった。
そして海女さんたちはお守りの効果をバカにしていたのだが、あのお守りはたしかに女性の願いをかなえたのである。
あのとき、ギョクレンからふんだくったお守りを手にして、ひとりの海女さんは言った。
「ウチのもの買ったほうがよっぽどいいわ」
彼女たちは知らずにご利益にあずかっていた。
(完)