空席(その3)

(前回のお話はこちらから)

 

うかつなことをしたもんだと、自分の行動の軽率さを悔やんだのだが、ときすでに遅し。どうしたものかと考えたところで、どうしようもない。

男はさっきまでの鋭い視線をさやに納めてしまい、下を向いて縮こまってしまう。

すると今度は若者たちがおもしろくない。あてつけのためのばか騒ぎなのに、相手に反応がないのでは、はりあいがないのである。

こうなると行動はエスカレートしていく。声も動作も大仰になって、男をはさんで、両脇のふたりが握手をしだしたり……これには亀のように身をすくめていた男もだまったままではいられなかった。

「座りますか?」

「いえいえ、大丈夫ですよ。もうすぐ降りるんです」

席をゆずろうとした男を、若者たちはおだやかに制した。そうしておいて、またもやあいだにはさんで会話を続ける。
失礼な態度ならいざしらず、相手に誠実な対応をされると手のほどこしようがなく、それ以上はなにも言わずにすわり続けていた。

「ご乗車おつかれさまでした。○○駅です~」

三駅すぎて目的の駅が近づくと、三人は立ち上がり、がやがやとホームへと降り立った。
ようやく解放された男は、大きく息を吐いて崩れるように背中をもたれた。
おそらく立ったままでいるよりも、数倍は疲れているであろう。

 

ギョクレン思へらく

「空席、うかつに座るべからずや」

(完)