ごみ箱(その1)

ギョクレンの会社にひとりの親切な上司がいる。彼は毎週一回、まわりの人の分までごみ箱をそうじしてくれるのである。

その日がくると、大きなポリ袋を片手にねりあるき、そこへごみ箱の中身をかたっぱしから放り込んでいく。

「ごみあるかい」「ハイ、ごみの日ですよ」

軽快な呼びかけが行く先々で聞こえてきて、オフィスのフロアを明るいふんいきにしてくれるのであった。

もちろんギョクレンの席にも毎週やってくる。今週も気さくに声をかけ、なれた手つきででごみ箱を持ちあげ、ひょいと中身を空にしていった。じつにさりげなく善意をほどこすさま、そして大きなごみ袋をかかえて去っていくうしろ姿は、まるで季節はずれのサンタクロースのようでもある。

ところがそれを見送るギョクレンの表情には感謝の気持ちがあふれているどころか、どこかうかない、すこしこまったような顔をしていた。

 ギョクレンは自分のごみ箱にスーパーのビニル袋をかぶせて使用している。こうすればごみを捨てるさいに袋だけを取り外せば済むので、たいへん便利だと考えてのことであった。ところが上司はとてもおおらかな人物なのか、袋がかぶさっていようがいまいが、そんなせせこましい小細工なぞにはとん着しない。ただただ豪快にごみ箱をかかえあげ、バサバサと二、三度ゆすって中身を放り込んでいくだけであった。

べつに自分の細やかな気配りを無下にされているからって、苦虫をかみつぶしているのではない。ギョクレンの悩みはもっとほかのところにあったのである。

(続く)