ヤンチャ坂

今週のお題「2013年、夏の思い出」

ギョクレンの故郷にヤンチャ坂とよばれる非常に急な坂がある。ヤンチャとはあのヤンチャ坊主のことを言っているのである。かつて、といっても、どれくらい前のことかわからない。とにかくずっと昔そこの付近にどうにも手のつけられないヤンチャ坊主が住んでいた。困りはてた父親はその子を殺して樽に閉じ込め、山の上に埋めてしまった。

それから時がたち、事情を知らずにその土地を手に入れたところ、家のものによくないことが起こるようになる。占い師に見てもらうと、無縁仏となったヤンチャのしわざだという。

それいらい、うちのものは毎年一回、お盆の中日にヤンチャ坂をのぼって、ヤンチャにお参りにいくようになった。ヤンチャの埋められたという場所には、目印として一本の木が植えられている。

今年の夏も、もちろんヤンチャにお参りに行くつもりであった。だが、ギョクレンは都合で親戚一同のお参り日に帰省することができず、一日遅れてしまう。

お参りは昨日行ったよと母親に言われたが、なんだかんだで送り盆にあたるその日も行くことになった。

お参りをした帰り道にヤンチャ坂を降りている途中、ちょうちんがとつぜん壊れた。まるでうしろからいたずらで叩かれたように落ちてしまったのである。

「あら、めずらしく二回も来たものだから、ヤンチャが合図でもしたのかしら」

母親は言った。

 

柳田國男先生の前でぜひとも披露したい伝説である。