山あいのコンビニエンスストアにはいった一行は、店内中央に位置する陳列棚のなかに奇妙なガムの存在をみとめた。それほど目立つ場所ではなかったのに、目にとまったのは奇縁であろうか。おどろおどろしい日本人形がうつるパッケージに書かれた文字に一行の興味はいやがうえにもかきたてられる。
「超怖い話ガム」・・・超がつくほど怖いものであるはずなのに、失笑すらさそってしまう不思議さ。陰と陽が複雑にまじりあうネーミングは、オカルト以外のなにものでもない。
もはや迷いはなかった。彼らはなにかにひきつけられるかのように一枚手に取ると、まっすぐにレジへとむかっていた。
車にもどった一行は、ふたたび峠道を走りだした。日はすっかり暮れて、うす暗い電灯だけが山中の一本道を照らしていた。ひとつカーブを曲がるたびに、暗やみが不気味に口をあけて待ちかまえている。
「なあ、あけてみようぜ」
静まりかえった車内にひとりの声がひびいた。もちろん視線の先にあったのは、さきほどのコンビニから加わったもうひとりの乗客、命なき同乗者である。
慎重に封をあけて出てきたのは、一枚の紙と一センチ角ほどの小さなガムであった。
「はやく読んでくれ」
なにかにとりつかれたかのような、熱にかられた声がせかす。
「このごろ、土手の一本道を通るたびに赤ちゃんの鳴き声が聞こえてくる・・・」
言われたほうは紙をとりあげて、つたない調子で読みはじめた・・・
超怖い話ガム・・・世の中だいたいにおいて、「超」がつくものにかぎって、ロクなのがないのが定説である。だが、いっぽうで「超」という言葉ほどロマンを感じるものはない。
だからわれわれは、ロマンをもとめる者たちは、悲劇的な結末に突き進むであろうことはわかっていても、「超」を見のがすわけにはいかないのである。
「これ、べつに俺の読み方のせいじゃないからな」
語り終えたあとに車内に充満した残念な空気にたいして、いたたまれなくなった読み手が声をあげる。もちろん全員そんなことはわかっていた。自分たちが望んでまねいた結末なのだから・・・
ほかのだれひとりとして発言にこたえることはなかったので、読み手の声はむなしくひびいただけで、峠にひびくエンジン音にかき混ぜられていった。