ムルティプラに乗り始めてからというもの、エグザンティアのすばらしい乗り味を再認識し、なるだけ長く乗り続けていきたいと思うようになった。
ムルティプラも良いクルマであることは間違いないのだが、エグザンティアのシートに座ったときの包まれるようなフィット感や、クルマを走らせているときに感じる安らぎの心地よさ、信号待ちのハンドルから伝わる生き物のような鼓動など、エグザンティアがもつ、その独特の乗り味は何物にも代えがたい。
そろそろ車検を迎えるので、そのタイミングでボディコーティングでもしてやろうか、などと考えていたのであるが、その日はついにやってきた。
もともとエグザンティアの窓落ちは、お決まりのトラブルとは聞いていたので、常に頭の片隅にはあった。
甘木さんから指南された、「窓ガラスを最低5㎝くらいは残して、全開にしてはいけない」という掟も、この2年守り続けていた。
この日は、自宅の駐車場に戻る50メートルほど前で窓を開けた。とても暑い日で、車内は冷房を効かせていたのに、どうして窓を開けたのか、いまでも理由はわからない。ただトラブルとは、そういう意味不明な行動がきっかけで起きるのであろう。
「いつもよりガラスを下げすぎたかな」と思いつつ、駐車場に向かって徐行していると、不意に「トン」と音がする。「おや、何か踏んだかな」と、開いている窓から下を見てみたが、何も落ちていない。
そして顔を車内に戻したとき、窓がないことに気が付いた。
私は、20代のころに、ぼろいカリーナに乗っていて、真冬の草津で窓が落ちた経験がある。そのときは、たまたま近くにあったガソリンスタンドに駆け込んで、親切な店員さんにつっかえ棒をして応急処置をしてもらった。
だから、まずは自分でつっかえ棒でもやってみようかなと調べてみたが、エグザンティアの場合は、なんだか難しそうである。
そして運悪く、空からは雨がポツポツと降ってきた。
ちょうどお盆休みで甘木さんのお店も休みである。しかも最近は入庫が多すぎてパンク寸前と書いてある。休み明けに連絡しても、すぐに修理してもらえる保証はない。
だったら、ちょうど車検の時期なので、そのときについでに窓落ちも修理してもらおう。そう方針を決めて、これから一週間続くと予報があった大雨を乗り切るため、ゴミ袋で窓を完全にふさぐことにした。
お盆休み明けに甘木さんのお店で車検の予約を取り、エグザンティアは9月初めまで、3週間の眠りについたのであった。